「人魚ノ肉」木下昌輝著
大政奉還の翌月、倒幕開国に奔走する坂本竜馬は同志の中岡慎太郎と隠れ家の京都近江屋で江戸に都を移す算段をしていた。腹が減って仕方がない竜馬は、少年時代に故郷の桂浜で打ち上げられた人魚の肉を食べたことを思い出す。食べれば不老不死といわれる人魚の肉だが、一緒に食べた岡田以蔵は今はもういない。以蔵と竜馬は、その後、三日三晩荒れ狂い家に閉じ込められたが、竜馬が覚えているのは以蔵の目に宿った狂気だけだった。慎太郎は、竜馬から以蔵が保管していた人魚の肉と血がいまだに腐らずどこかに存在しているはずだと聞く。(「竜馬ノ夢」)
幕末の京都を舞台に、歴史上の人物たちが「人魚ノ肉」にとりつかれるさまを描いた妖奇譚集。
(文藝春秋 1550円+税)