「土方歳三」(上・下) 富樫倫太郎著
幕末きってのイケメンで、めっぽう剣術の腕が立ち、新選組の「鬼の副長」と恐れられた土方歳三の生涯を描く歴史小説。
歳三は武蔵国多摩郡石田村(現在の日野市)の豪農の六男。顔に似合わず負けん気が強く、触れるとトゲが刺さりそうだというので、「バラガキ」のあだ名がつくほどの乱暴者だった。11歳で上野の大店、松坂屋呉服店に奉公に上がったが、理不尽な手代や番頭に歯向かって店を飛び出す。
すきっ腹を抱えて上野から石田村に帰る途中、喧嘩の助っ人に割って入って出会ったのが勝五郎という少年で、後の近藤勇である。
身の置きどころがない歳三は、土方家伝来の石田散薬の行商という名目で、全国武者修行に出る。「何としても強くなって武士になる」。固い決意を胸に諸国の道場を巡り、磨きをかけた喧嘩殺法は、動乱の時代を背景に、歳三の運命を変えていく。
鬼の副長誕生の顛末を描く上巻は、池田屋事件でクライマックスを迎え、下巻の鳥羽・伏見、五稜郭の死闘へと続く。
歳三は厳格で執念深く、情け容赦がない。半面、沖田総司に慕われ、吉原の人気花魁に惚れられる。へそ曲がりな硬骨漢だが、時には愛する者のために涙する魅力的な男に描かれている。(角川書店 各1500円+税)