「八月の光・あとかた」朽木祥著
その日の朝、真知子は出征中の夫に供えた「陰膳が落ちた」ことを理由に勤労奉仕を休むと言い出す。真知子は橘川さんとともに産業奨励館(後の原爆ドーム)近くの郵便局で勤労奉仕をしていた。昔から、災いの予兆を言い当ててきた真知子を無理強いする者はいない。
13歳の娘・昭子は、祖母のタツに頼まれ、登校途中に橘川さんの家に寄り母が休むことを伝える。駅で汽車を待っていると、強烈な光に叩かれ、気が付くと線路に吹き飛ばされていた。何が起きたかも分からずその場から逃げ出した昭子は、川に向かって歩く人であって人でなくなってしまった人々の行列を目にする。(「雛の顔」)
原爆投下直後のヒロシマを生き残った人々の視点から描いた連作集。(小学館 540円+税)