「堕ちられない『私』」香山リカ著
精神科医である著者の診療室に救いを求めてやってくる人たちには、共通して「決定的に欠けているもの」があるという。それは「堕ちる力」だそうだ。上昇志向を絶対的な善とする世の中の価値観が強大化し、自分を叱咤激励し続けた結果、ついに壊れてしまった人たちだ。彼らは、「何もしない、何も考えない」「ダラダラ、グズグズして過ごす」のがとっても苦手。しかし、人は上昇するよりも堕ちることで、人間らしい生き方を回復できると著者は説く。
「停滞これ即、衰退」と仕事を持ちながら夜間の大学院に通い、土日は資格試験の学校にも通う自己啓発が趣味の女性ら、患者のエピソードを紹介しながらつづる「新・堕落論」。(文藝春秋 750円+税)