やっぱり住む場所で人生変わるのだ

公開日: 更新日:

「東京どこに住む? 住所格差と人生格差」速水健朗著/朝日新書

 昨今「地方創生」やら「移住ブーム」などと言われることもあるが、人が集まる「東京」のパワーの強さについて「田舎者が書いた都市礼賛本」である(あとがきより)。著者は石川県出身で、現在東京在住。

 いかにして都市からいろいろなものが生まれるかや、家賃が高いのになぜ、わざわざ千代田区に住むのかといった話を多面的な取材と文献から読み解いていく。また、著者本人も含め、住む場所によりいかにして人生が変わるのかや、ビジネスが成功するのかといった観点から「住所」を論じる。登場する言葉で納得したのが、都市における「正の外部性」という話だ。

 都市にいて、多くの人と接することにより、さまざまなメリットが生まれるという説である。それこそ、恋愛だったりアイデアだったりするわけで、それはやはり多くの人が集まることによって生み出されるものだと指摘する。また、IT企業・ヤフーが在宅勤務を禁止したことや、会社から2駅以内に住めば家賃補助をするサイバーエージェントなどが紹介される。

 インターネットがあれば、わざわざ顔を突き合わせる必要もないし、満員電車に乗る必要もない。いいことずくめではないか! そういった話はネット時代になってからは多分に喧伝されてきた。しかし、いまだに通勤ラッシュもあるし、会社でも「会議室がなかなか取れません……」みたいな状況は多い。結局都市(というか東京一極集中)の利点は存在し続けているのだ。消費者庁が徳島に移る計画を立てているというが、本当にそれでうまくいくのか?本書を読むとそれは疑問に感じる。

 本書の優れた点は、さまざまな文献を検証し、そこに書かれている本を読みたくさせるところにもある。たとえば、アルビン・トフラーは、1980年に大ベストセラー「第三の波」を書いた。ここでは、現在の情報チップが各種家電や車に組み込まれること、「農業回帰」「オリジナルTシャツがはやる」といった細部にわたる予言が当たっていたという。だが、「都市が衰退する」という予言は外れていたと著者は指摘する。

 このようなブックガイドとしての機能も持ち、さらには米・ニューヨークやポートランドの最新事情も網羅しており、現在の自分が住んでいる場所は果たして幸せな人生をもたらしてくれるのか? を立ち止まって考えさせるきっかけを与えてくれるのだ。

★★★(選者・中川淳一郎)

【連載】週末オススメ本ミシュラン

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  2. 2

    米挑戦表明の日本ハム上沢直之がやらかした「痛恨過ぎる悪手」…メジャースカウトが指摘

  3. 3

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  4. 4

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  5. 5

    巨人「FA3人取り」の痛すぎる人的代償…小林誠司はプロテクト漏れ濃厚、秋広優人は当落線上か

  1. 6

    斎藤元彦氏がまさかの“出戻り”知事復帰…兵庫県職員は「さらなるモンスター化」に戦々恐々

  2. 7

    「結婚願望」語りは予防線?それとも…Snow Man目黒蓮ファンがざわつく「犬」と「1年後」

  3. 8

    石破首相「集合写真」欠席に続き会議でも非礼…スマホいじり、座ったまま他国首脳と挨拶…《相手もカチンとくるで》とSNS

  4. 9

    W杯本番で「背番号10」を着ける森保J戦士は誰?久保建英、堂安律、南野拓実らで競争激化必至

  5. 10

    家族も困惑…阪神ドラ1大山悠輔を襲った“金本血縁”騒動