映画界、出版界も注目 なぜいまヒトラーなのか?
「野戦病院でヒトラーに何があったのか」ベルンハルト・ホルストマン著、瀬野文教訳
画家を名乗りながらも売れない貧乏暮らし。親の遺産で食いつないでいた引きこもり同然の若者が、兵卒として参戦した第1次大戦のあと、いきなり右翼の集会で頭角を現す。それがヒトラーだ。
彼の人生についての研究は山のようにあるが、野戦病院に収容されていた1カ月ほどの期間については詳細不明という。入院の理由は毒ガスによる視覚障害。注目されるのが、傷病兵ヒトラーの治療に当たったのが精神科医だったこと。催眠療法の権威でもあったことから、相当強引な治療も行ったらしい。ヒトラーの場合、強度の妄想症状があった形跡が濃く、治療の過程で激しい恥辱を味わわされることもあったらしい。カルテは戦後、亡命ユダヤ人作家グループの手に渡ったが、それを手にした作家も担当医師も既に物故。
その間の事情を追ったノンフィクションが本書だが、異色なのは著者。ドイツ国防軍の将校ながら反ヒトラー運動に連座して投獄。戦後はミステリー作家になり、80歳を過ぎて本書の執筆に取りかかったという。(草思社 2500円+税)