「鉄道少年」佐川光晴著
5歳以前の記憶がなく、両親の顔も覚えていない「わたし」は、半年前に巡り巡って手元に届いた小さな段ボール箱を開けて、初めて自分が何者かを知った。箱の中には数本のカセットテープと「鉄童日記」と書かれたノートが入っていた。「わたし」は、その情報を頼りに幼いころの自分を知る人に会いに行く。最初に訪ねたのは、今は神田で出版社を営む百合子さんだった。当時、友人の仕事を手伝っていた百合子さんは、青函連絡船を使って函館と東京の間を行き来していた。幼かった「わたし」を見かけたのはその船の中だったという。
国鉄民営化前、北海道を拠点に一人で電車旅をする男の子と、彼をめぐる人々をミステリアスに描く長編小説。(実業之日本社 620円+税)