「古都再見」葉室麟著

公開日: 更新日:

 これまで九州に足場を置いていた著者が、一昨年、京都に仕事場を構えた。本書は、1年4カ月におよぶ京都暮らしについて書かれたエッセー集。

 話題は多岐にわたる。平安神宮の薪能の舞台を眺めながら、亡き山本兼一のことを思い、三条河原町のレトロな喫茶店で「カラマーゾフの兄弟」を読み、ゾシマ長老と法然の死に思いをはせ、地下鉄で見かけた上品な高齢の女性が、いきなりロバート・B・パーカーのハードボイルド小説を読み始めたのに驚かされ、坂本龍馬が潜伏していた酢屋の前を通りかかって、もし龍馬が生きて松平春嶽が明治政府の中枢に席を置いていたらと夢想し、オバマ大統領広島での演説を聴きながら、アメリカが京都に原爆を落とさなかったのは、モルガン財閥の御曹司と結婚したモルガンお雪が京都に住んでいたからという説を思い出す……。

 京都初心者の初々しく好奇に満ちた視点と手だれの歴史小説家の透徹した目が合わさって絶妙な味を醸し出し、古き都の今と昔へ誘ってくれる。(新潮社 1600円+税)

【連載】週末に読みたいこの1冊

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    “3悪人”呼ばわりされた佐々木恭子アナは第三者委調査で名誉回復? フジテレビ「新たな爆弾」とは

  2. 2

    フジテレビ問題でヒアリングを拒否したタレントU氏の行動…局員B氏、中居正広氏と調査報告書に頻出

  3. 3

    菊間千乃氏はフジテレビ会見の翌日、2度も番組欠席のナゼ…第三者委調査でOB・OGアナも窮地

  4. 4

    中居正広氏「性暴力認定」でも擁護するファンの倒錯…「アイドル依存」「推し活」の恐怖

  5. 5

    大河ドラマ「べらぼう」の制作現場に密着したNHK「100カメ」の舞台裏

  1. 6

    フジ調査報告書でカンニング竹山、三浦瑠麗らはメンツ丸潰れ…文春「誤報」キャンペーンに弁明は?

  2. 7

    フジテレビ“元社長候補”B氏が中居正広氏を引退、日枝久氏&港浩一氏を退任に追い込んだ皮肉

  3. 8

    下半身醜聞ラッシュの最中に山下美夢有が「不可解な国内大会欠場」 …周囲ザワつく噂の真偽

  4. 9

    フジテレビ第三者委の調査報告会見で流れガラリ! 中居正広氏は今や「変態でヤバい奴」呼ばわり

  5. 10

    トランプ関税への無策に「本気の姿勢を見せろ!」高市早苗氏が石破政権に“啖呵”を切った裏事情