「鍼灸日和」未上タニ著
祖問大慶28歳、小太り丸顔の鍼灸師だ。この男、たとえばコンビニの雑誌売り場の前でガラの悪い男たちが床に座っていると「ちょっと邪魔なんだけど」と注意するのだ。男たちと揉め事になるなんて、まったく考えないのである。声をかけられた男のひとりが「うるせえチャーシュー」と悪態をつくと、今度は簡単にキレてしまう。
ちなみに、小太りの祖問大慶が薄いピンクのTシャツを着ていたので、それが豚チックに見えること、さらには胸元に「PORK」という文字があることなどから(そういうTシャツを着るセンスもすごいが)、男が「チャーシュー」と呼んだわけだが、この小太り丸顔の鍼灸師は、「チャーシューってなんだよ」「これは豚の角煮でしょ!」と怒るのである。そこに怒るのかよ、と突っ込みたくなるところだ。さらに、強くもないのに「表に出ろ!」と言うんだから、わけがわからない。
本書は、そのへんてこ鍼灸師が、さまざまな問題を抱えて身動きがとれなくなっている西川家にやってきて、彼らの体と心を癒やしてしまう物語だ。いや、正確にいうならば、へんてこ鍼灸師は西川家の問題をすべて解決するわけではない。それほど簡単に悩みや問題は解決しない。しかし、へんてこ鍼灸師の治療は西川家が変わるきっかけになる。
この小太り丸顔の男に導かれるように西川家のみんなが壮絶な大喧嘩に突入するラストまで、一気読みの快作である。
(KADOKAWA 1400円+税)