天才的コミュニケーション術の秘訣は江戸っ子の3カ条だった
「人生ごっこを楽しみなヨ」毒蝮三太夫著/角川新書
「なんだよ、このババア」
そんな暴言を初対面の女性に吐いて、嫌われることがない唯一の存在が、毒蝮三太夫さんだ。若者から、「あんな年寄りになりたいと思われるくらいチャーミングでありたい」というのが蝮さんの目標だというが、その目標はすでに十分達成されている。
81歳を迎えて、バリバリのラジオパーソナリティーを続けているし、大学教員を務め、さまざまなメディアで活躍を続けている。世間から求められている証拠だ。
私は、一度だけ蝮さんとお話をしたことがあるのだが、もう30年くらい付き合った友人のように打ち解けてしまった。コミュニケーションの天才なのだ。
蝮さんが持つコミュニケーション術は、高齢社会を迎えるにあたって、多くの人に必要になるものだが、その秘訣を初めて開陳したのが本書だ。
ネタばれになってしまうので細かくは紹介しないが、私が発見した蝮さんがチャーミングな理由のひとつはチャキチャキの江戸っ子だということだ。品川生まれの浅草育ち。毒舌といわれる話し方も、実は江戸っ子のしゃべり方なのだ。
蝮さんも、そのことはしっかり認識していて、本書のなかで「江戸っ子の3カ条」というのを紹介している。①出世をしない②ものを残さない③悩まない――というものだ。私自身も、出世をしない、悩まないという2点は実践しているが、私はコレクターなので、ものを残さないというのと真逆のことをやっている。それが自分の生活を苦しめていることは重々承知しているので、3カ条を守ることが、チャーミングな高齢者になるために大きく貢献することは間違いないだろう。
もちろん本書には、魅力的な高齢者になるためのさまざまなヒントがぎっしりと詰め込まれているので、それらを実践することで、コレクターのマイナス面を埋めようと思っている。
人間は、あっという間に年を取ってしまう。私も60歳を迎えてしまった。ここまで頑張ってきたから、今後は自由に生きてもよいような気もするが、それでも世間に嫌われるよりは、すてきだなと思われるほうがよい。本書はそのための案内書だ。
★★★(選者・森永卓郎)