50年ぶりに妻がパンを食べる姿を見て…
「しあわせのパン」三島有紀子著/ポプラ文庫 600円+税
パン屋といえば、町中にあるというのが相場だが、本書の舞台となるのは、北海道の洞爺湖を見渡せる丘の中腹にポツンと立つパン屋。りえと尚の水縞夫妻が営むパンカフェ「カフェ・マーニ」は宿泊もでき、店が供する香り豊かなコーヒーと温かなパンは、訪れる人たちの心を豊かにし、格好の憩いの場所となっている。
【あらすじ】
羽田空港で恋人に沖縄旅行をすっぽかされた香織は、衝動的に真逆の北海道便に飛び乗る。そして行き着いたのがカフェ・マーニだ。
ズタズタだった香織の心は、おいしいパンと料理、常連客たちの優しい心遣いで痛みが薄らいでいく。
母親が家を出ていった事実を受け入れられずに父に反発する小学4年生の未久。そんな父娘の絆をふたたび結びつけるべく、水縞夫妻は未久の母の思いの詰まったポタージュスープをテーブルにのせる。
結婚して50年。新婚当初、史生がパンを買って帰ると「なんや、パサパサして食べにくい」と言って最後まで食べずに残した妻のアヤ。以来、アヤがパンを食べている姿を見たことがなかった。そのアヤが、カフェ・マーニで出されたパンをおいしそうに食べている。その姿を見て、生きる希望を失ってこの地にやってきたはずの史生の心は、変化を遂げていく――。
【読みどころ】原田知世と大泉洋が夫婦役で共演した同名映画の小説版。映画では主人公の水縞りえ・尚夫婦の微妙な関係はほのめかされる程度だが、本書では尚の日記という形で、2人のバックグラウンドが明かされている。また巻末には、店名の由来となった著者のオリジナル絵本「月とマーニ」がカラーで収録されている。映画を見てから読むと、感慨もひとしお。
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