「護られなかった者たちへ」中山七里著
仙台市の老朽化した無人アパートから四肢の自由を奪われ口をふさがれた餓死死体が発見された。被害者は同市の福祉保健事務所課長の三雲。飲まず食わずで放置されるという残忍な手口から怨恨の線で捜査が進められたが、三雲は公私ともに人格者として知られており、物取りの可能性も低い。
確たる手がかりのない中、今度は県会議員の城之内が同様の手口で殺害される。こちらも清廉潔白を絵に描いたような人物。三雲と城之内の関係を洗っているうちに、服役を終えたばかりの利根という男が浮かび上がってくる。利根は8年前に、知り合いの老婦人の生活保護申請を巡って福祉事務所に乗り込み、暴行の揚げ句事務所に放火したのだ。“善人”とされる2人と利根の間に何があったのか……。
本書で描かれているのは、日本の生活保護政策の暗部である。法と不法、善と悪、正義と不正、罪と罰といった相反するものが複雑に入り組んでいる福祉行政の現場の問題点を、ミステリーの視点から暴き出した問題作。(NHK出版 1600円+税)