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「核と戦争のリスク」薮中三十二、佐藤優著

 ハワイでもNHKでも誤報の出た北朝鮮ミサイル情報。露骨な「親トランプ」ぶりで北朝鮮を挑発する安倍政権は正しいのか?

 かつて外務省では超エリートの事務次官とヒラ外交官とで立場を違えた2人。前者は知米派、後者はロシア専門家という違いもある。その2人が戦争と日本の核武装を語った本。冒頭から意見が一致するのは、トランプべったりの安倍外交の危うさ。「トランプと波長が合う人って言うと、ネタニヤフ、プーチン、安倍晋三」(佐藤)、「本当の信頼関係がそこにあるのかどうか」(薮中)。

 また、最近日米の一部でささやかれる「日本核武装論」についても、日本が核武装を目指しても核実験を行う場所は国内外ともにない。さらに、核ミサイル基地などつくろうものなら、真っ先にそこが狙われるため、基地建設も不可能だと単刀直入に否定する。

 そもそも核兵器開発は極秘に進めて、ある日突然「実用化した」と発表するのが常識だが、日本では必ず自慢話をする政治家が出て、秘密が守れず、「そうするとアメリカも止めに入らざるを得ない」(薮中)。

 日米同盟とはいえ、両者の地政学リスクは全く別。いまだ国務省の東アジア担当次官補すら空席というトランプ政権こそが、最大の潜在リスクなのだ。 (朝日新聞出版 760円+税)

「軍事のリアル」冨澤暉著

 陸上自衛隊幕僚長という陸自トップの地位にあった著者。退役して久しいが、現場の知見と経験を踏まえた発言で注目される。その重要論点のひとつが、世にはびこる「集団的自衛権」と「集団安全保障」の混同。前者は特定の国を守る国権の防衛だが、後者は地域などを集団で守るもので、国連などが関わる。

 従って、著者によれば、国連が決議する多国籍軍は集団安保に属する問題。ところが、第1次安倍内閣で発足した安保法制懇談会(法制懇)も両者を混同し、人道支援やPKO、多国籍軍など集団安保の中身を集団的自衛権として議論している。

 しかし、この奇妙さを著者が朝日新聞のインタビューで指摘すると「反政府の朝日に名前を出すのはよくない」「利敵行為だ」という手紙やメールが自衛隊OBのほか、法制懇の学者からまで来たという。著者は日本は核武装すべきでないが、アメリカが公式に核武装を要求してきたら検討すべきとしている。(新潮社 760円+税)

「日本の安全保障」加藤朗著

「戦後レジームからの脱却」を掲げる安倍政権。安全保障面では、武力行使を個別的自衛権のみに限定する消極的な専守防衛思想が「戦後レジーム」。それを築いたのが吉田茂だ。

 これに対して、集団的自衛権を容認して積極的、攻勢的な集団防衛を志向するのが安倍外交。「積極的平和主義」がそのスローガンだが、経済復興優先のために対米追随を選んだ吉田外交ではなく、これまで以上に対米貢献度を深めて日米同盟を強化しようという点で「積極的対米貢献主義」にほかならないと本書は喝破する。

 著者は安全保障論を専門とする桜美林大教授。(筑摩書房 800円+税)

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