「美しく、狂おしく」春日太一著
今年で芸能生活60周年を迎えた女優、岩下志麻の、デビュー作から代表作、思い出の作品までを一冊にまとめたもの。
岩下が初出演したのはNHK「バス通り裏」。高校2年生のときだ。病になり、落ち込んでいたとき、気分転換の意味で出演したのだが、そもそも女優になる気などなかった。
映画デビューは1960年。松竹に入社し、木下恵介監督の「笛吹川」に出演。62年には巨匠・小津安二郎監督の「秋刀魚の味」にヒロイン役として大抜擢される。さらに伴侶となる篠田正浩監督と邂逅し、独立。代表作の、69年の「心中天網島」に主演。
岩下は「高校のころ、精神科医を志していた私にとって、女優は演じるというより、他の人間になれるということ。それこそが女優の醍醐味です。目指すのは狂気の世界」だと言い切る。(文藝春秋 1750円+税)