理想主義を捨てた国際社会への鋭い批判

公開日: 更新日:

 シリア難民問題に端を発した一連の騒動でいまや権威ガタ落ちのEU。そんな時世を背景に、理想主義を捨てた国際社会への鋭い批判を秘めた娯楽映画と評判で話題なのが先週末封切りの「修道士は沈黙する」である。

 舞台はG8(先進8カ国財務相会議)の開かれるドイツの高級保養地。ゲストに招かれたのが著述家としても名高い修道士ロベルト・サルス。会議の前夜、彼は国際通貨基金の理事から内密にカトリックの告解を受けてほしいと頼まれる。ところが翌朝、サルスが去ったあとの理事の部屋で死体が発見される……。

 いわくありげな仕掛けと筋立てに加え、役者陣も欧州のベテランを配して楽しませる。まるで国際謀略の現場に立ち会っているような気分を味わわせるのだ。監督ロベルト・アンドーと主演トニ・セルヴィッロはイタリア政界を舞台にした「ローマに消えた男」と同じコンビで、今回も息の合ったところを見せている。ちなみに世間の映画紹介では「世俗の物質主義と高潔な精神主義の対立が主題」などと肩に力の入った評が見受けられるけれど、私見の限りではむしろちょっと気取ったスノッブ風味の高級ミステリーという印象だ。

 実際、修道士と推理小説の組み合わせはウンベルト・エーコの「薔薇の名前」をはじめ「修道士カドフェル」「修道女フィデルマ」など人気シリーズが多々ある。だが、今回はわがニッポン少女マンガ界から青池保子著「修道士ファルコ 1~5巻」(秋田書店 429~514円)を関連本で挙げたい。

 作者いわく「嘘か本当か分からない何でもありの中世昔話」である。

 <生井英考>

【連載】シネマの本棚

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人が戦々恐々…有能スコアラーがひっそり中日に移籍していた!頭脳&膨大なデータが丸ごと流出

  2. 2

    【箱根駅伝】なぜ青学大は連覇を果たし、本命の国学院は負けたのか…水面下で起きていた大誤算

  3. 3

    フジテレビの内部告発者? Xに突如現れ姿を消した「バットマンビギンズ」の生々しい投稿の中身

  4. 4

    フジテレビで常態化していた女子アナ“上納”接待…プロデューサーによるホステス扱いは日常茶飯事

  5. 5

    中居正広はテレビ界でも浮いていた?「松本人志×霜月るな」のような“応援団”不在の深刻度

  1. 6

    中居正広「女性トラブル」フジは編成幹部の“上納”即否定の初動ミス…新告発、株主激怒の絶体絶命

  2. 7

    佐々木朗希にメジャーを確約しない最終候補3球団の「魂胆」…フルに起用する必要はどこにもない

  3. 8

    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

  4. 9

    フジテレビ「社内特別調査チーム」設置を緊急会見で説明か…“座長”は港社長という衝撃情報も

  5. 10

    中居正広「女性トラブル」に爆笑問題・太田光が“火に油”…フジは幹部のアテンド否定も被害女性は怒り心頭