著者のコラム一覧
笠井潔

1948年、東京生まれ。79年、デビュー作「バイバイ、エンジェル」で角川小説賞受賞。以後、ミステリー、思想評論、探偵小説論など幅広い分野で活躍。主な著書に、「サマー・アポカリプス」他の矢吹駆シリーズ、伝奇ロマン「ヴァンパイヤー戦争」シリーズなど。

男性/若年/非大卒/=「レッグス」に負の遺産が集中

公開日: 更新日:

「日本の分断 切り離される非大卒若者たち」吉川徹著 光文社860円+税

 イギリスやフランスでは、ワーキングクラスとミドルクラスの階級対立が深刻だ。アメリカ社会は複数のエスニシティー集団に分断されている。「一億総中流」の日本社会は比較的均質で、社会集団間の対立も少ないといわれてきた。

 しかし、近年は日本でも子供の貧困や下流老人などが注目され、格差化と貧困化の進行は無視できない。このまま日本社会は、欧米社会のような分断化に向かうのだろうか。

 社会学的なデータを読み解きながら、この問題にメスを入れたのが本書だ。日本社会の中心に位置する20歳から60歳までを、男性と女性、(40歳を境として)若年と壮年、それに大卒と非大卒の3基準で切り取ると、「男性/壮年/大卒」から「女性/若年/非大卒」まで、8つのグループに分かれる。

 生まれつきで変更不能な性差や年齢差に、日本社会では宿命的な生存条件として機能する学歴差を加えて、日本社会の構成員をグループ分けしたところに、著者の独自な発想がある。そこから導かれるのは、8つのグループのうち「男性/若年/非大卒」の676万人(全体の11・2%)が、他のグループと比較し、極めて不利な生活条件を構造的に強いられている事実だ。

 著者がレッグス(軽学歴の男たち)と呼ぶ「男性/若年/非大卒」グループは、平成大不況と日本経済の構造変動による負の遺産を集中的にしわ寄せされてきた。富やチャンスの配分という点で日本社会の最下層に位置するレッグスこそ、草食系、政治離れ、マイルドヤンキーなどの言葉で語られてきた若者たちの正体らしい。

 レッグスの境遇を現状のまま放置し続けるなら、団塊の世代が退出したのちの日本社会は、決定的に分断されていくだろう。


【連載】貧困と右傾化の現場から

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  2. 2

    “氷河期世代”安住紳一郎アナはなぜ炎上を阻止できず? Nキャス「氷河期特集」識者の笑顔に非難の声も

  3. 3

    不謹慎だが…4番の金本知憲さんの本塁打を素直に喜べなかった。気持ちが切れてしまうのだ

  4. 4

    バント失敗で即二軍落ちしたとき岡田二軍監督に救われた。全て「本音」なところが尊敬できた

  5. 5

    大阪万博の「跡地利用」基本計画は“横文字てんこ盛り”で意味不明…それより赤字対策が先ちゃうか?

  1. 6

    大谷翔平が看破した佐々木朗希の課題…「思うように投げられないかもしれない」

  2. 7

    大谷「二刀流」あと1年での“強制終了”に現実味…圧巻パフォーマンスの代償、2年連続5度目の手術

  3. 8

    国民民主党は“用済み”寸前…石破首相が高校授業料無償化めぐる維新の要求に「満額回答」で大ピンチ

  4. 9

    野村監督に「不平不満を持っているようにしか見えない」と問い詰められて…

  5. 10

    「今岡、お前か?」 マル秘の “ノムラの考え” が流出すると犯人だと疑われたが…