アンダークラスの登場で階級対立が再来
「新・日本の階級社会」橋本健二著/講談社 900円+税
階級論では人を職業や所得の源泉によって分類する。これまでは企業の役員や経営者などの資本家階級、農業など自営業者の旧中間階級、非雇用の管理職や専門職の新中間階級、さらに単純事務職、販売職、サービス職、その他のマニュアル労働に従事する労働者階級の4階級が存在するといわれてきた。
こうした階級分類は、現状に即していないと著者は主張する。第5の階級としての「アンダークラス=下層階級」が登場してきたからだ。アンダークラスは、1990年代の就職氷河期にはじまる雇用の流動化と不安定化から生じた。従来の正規・安定労働者に対し、非正規・不安定労働者がアンダークラスの実体をなしている。
これまでの階級論では資本家階級と労働者階級の対立が重視されてきた。しかし今日では、資本家から正規労働者までの既成階級が一団となって、約930万人(労働人口の15%)のアンダークラスを排除、抑圧、収奪していると著者は批判する。
非正規の販売店員、給仕係、清掃員などのマニュアル労働を生業とするアンダークラス成員の平均個人年収は186万円で貧困率は38・7(女性は48・5)%と他階級に比較してきわめて高い。
本書によれば「アンダークラスは、所得水準、生活水準が極端に低く、一般的な意味での家族を形成・維持することからも排除され、多くの不満を持つ、現代社会の最下層階級である」。
戦後昭和の「一億総中流」時代にも階級は存在したが、所得や生活水準などの点で階級差はさほど目立たなかった。しかしアンダークラスの登場によって、戦前昭和までの日本社会で深刻だった階級対立が再来しつつある。この15年ほど、格差化や貧困化として語られてきた社会問題を、巨大な下層階級の新たな形成として論じ直したところに、本書の画期性がある。