著者のコラム一覧
永井義男作家

1949年、福岡県生まれ。東京外国語大学卒。97年「算学奇人伝」で第6回開高健賞受賞。「影の剣法」などの時代小説の他、ノンフィクションの「江戸の下半身事情」「図説 大江戸性風俗事典」など著書多数。

「武士の日本史」高橋昌明著

公開日: 更新日:

 サムライにあこがれる外国人がテレビなどに登場すると、ちょっとくすぐったい気分になる。とはいえ、日本人として悪い気はしない。また、日本人のほとんどは家系が話題になると、「うちの先祖は武士だった」と誇らしげに述べる。実際には人口構成からいって、そんなことはあり得ないのだが。

 ともあれ、サムライや武士はプラスのイメージでとらえられていることになろう。

 では、そもそも武士とは何なのであろうか。多くの人がイメージしているのは、時代小説や時代劇に登場する戦国時代の武将、そして江戸時代の下級武士であろう。とくに江戸時代の武士は文武両道で倫理礼節を守った、と信じられているようだ。

 本書には、その発生からたどりながら、武士の実像が描かれている。なかでも「第3章 武器と戦闘」以降が俄然、面白い。

「刀は武士の魂」「忠義を重んじる」など武士や武士道に関する通説、思い込みなどが次々とくつがえされていく。いわば証拠を提示しながらの論述は、小気味いいほどである。

 そもそも戦士集団だった武士は近世、支配階級となるに及び、文官とならざるを得なかった。その一方で、「武士は死を恐れない」など“観念的”な武士道は残っていった。

 明治以降、軍人=武士という詭弁が生まれ、太平洋戦争の終了まで続いた。たしかに一部の人々に誇りをいだかせたかもしれないが、著者はこの思想が「戦死の美化」に利用されたと指摘する。

 いや、現在も、これからも、武士や武士道は日本人の心情をくすぐりながら、都合よく利用されるかもしれないのである。本書はそこまで見すえているといえよう。(岩波書店 880円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    「たばこ吸ってもいいですか」…新規大会主催者・前澤友作氏に問い合わせて一喝された国内男子ツアーの時代錯誤

  2. 2

    インドの高校生3人組が電気不要の冷蔵庫を発明! 世界的な環境賞受賞の快挙

  3. 3

    中森明菜が16年ぶりライブ復活! “昭和最高の歌姫”がSNSに飛び交う「別人説」を一蹴する日

  4. 4

    永野芽郁“二股不倫”疑惑「母親」を理由に苦しい釈明…田中圭とベッタリ写真で清純派路線に限界

  5. 5

    田中圭“まさかの二股"永野芽郁の裏切りにショック?…「第2の東出昌大」で払う不倫のツケ

  1. 6

    大阪万博会場は緊急避難時にパニック必至! 致命的デザイン欠陥で露呈した危機管理の脆弱さ

  2. 7

    永野芽郁「二股不倫」報道で…《江頭で泣いてたとか怖すぎ》の声噴出 以前紹介された趣味はハーレーなどワイルド系

  3. 8

    レベル、人気の低下著しい国内男子ツアーの情けなさ…注目の前澤杯で女子プロの引き立て役に

  4. 9

    永野芽郁“二股肉食不倫”の代償は20億円…田中圭を転がすオヤジキラーぶりにスポンサーの反応は?

  5. 10

    芳根京子も2クール連続主演だが…「波うららかに、めおと日和」高橋努も“岡部ママ”でビッグウエーブ到来!