「骨と墓の考古学」谷畑美帆著
遺跡の発掘や骨の出土と聞くと、すぐに縄文時代などが連想されるのではあるまいか。
ところが、本書は江戸の遺跡について、しかも、人骨についてである。
これまで、日本の土壌は酸性のため、遺跡などでも人骨は残りにくいとされていた。ところが、江戸の墓の跡からは良好な状態で骨が出土する。これは、墓地の多くが低湿地で、水分が多いからだという。
これまで、東京の再開発に伴う武家屋敷の遺構の発掘で、出土するのはもっぱら欠けた陶器やクシなど、生活の品々だと思っていた。ところが、各地で人骨が出土し、分析されていたのである。特に、かつて寺が多かった港区一帯では、人骨が数十~数百の単位で出土するのは珍しくないとか。
分析技術の向上もあって、こうして出土した人骨から、江戸時代の人々の生活や健康状態など、さまざまなことがわかってきた。
たとえば、骨折の治療がある。骨を鑑定すると江戸の町の人々は、骨折してもきちんと固定治療をされていたため、変形はほとんどない。ところが、適切な治療を受けていない地方の人々の骨では、治癒後の変形が認められるという。
また、乳幼児の死亡率が高かったことは知られているが、骨を観察する限り、貴賤は問わなかったようだ。さらに、江戸市民の1割前後は梅毒に感染していたらしい。
さて、怪奇小説などで屍蝋は蠱惑的に描かれているが、江戸時代の遺構からは屍蝋化した遺体がしばしば出土するという。
著者によると、屍蝋を見るとさまざまな解明への期待で「ややワクワクする」が、「すごいのが臭いだ」そうだ。この臭いを嗅ぐと、その後しばらく食欲が低下するという。
そんな体験ができる著者は、ある意味うらやましい。(KADOKAWA 920円+税)