「アメリカは歌う。 コンプリート版」東理夫著

公開日: 更新日:

「聖者の行進」という歌は、黒人たちが葬送の行進のときに歌うもので、現世の苦しみから逃れて聖者の群れに加わりたいという来世での希望を歌ったものだとされている。しかし、この歌の歌詞には、アメリカ南部の奴隷州の黒人たちを北部の自由州へ逃亡させるための暗号が秘められていて、具体的な逃亡経路が示されているという。

 また、PPMで有名な「虹と共に消えた恋」という歌のオリジナルは、17世紀末のアイルランドとイングランドの戦いにまで遡り、そこには働き手を戦争に奪われた女性たちの悲しみが託されていたという。あるいは、同じPPMの「500マイル」は、新大陸へ渡り仕事を求めて国中をさすらった「ホーボー」と呼ばれる流れ者たちの悲哀が歌われている……。

 本書には、日本でも馴染みのアメリカのカントリーやフォークソングが多数取り上げられ、歌詞を手がかりにその歌が作られた背景と隠された意味合いが丁寧に解き明かされ、これまでの常識を見事に覆してくれる。800ページを超す大著にはアメリカ音楽にまつわる目から鱗のうんちくがたっぷりと詰まっており、年末年始の読書にお薦め。

(作品社 4200円+税)



最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  2. 2

    “氷河期世代”安住紳一郎アナはなぜ炎上を阻止できず? Nキャス「氷河期特集」識者の笑顔に非難の声も

  3. 3

    不謹慎だが…4番の金本知憲さんの本塁打を素直に喜べなかった。気持ちが切れてしまうのだ

  4. 4

    バント失敗で即二軍落ちしたとき岡田二軍監督に救われた。全て「本音」なところが尊敬できた

  5. 5

    大阪万博の「跡地利用」基本計画は“横文字てんこ盛り”で意味不明…それより赤字対策が先ちゃうか?

  1. 6

    大谷翔平が看破した佐々木朗希の課題…「思うように投げられないかもしれない」

  2. 7

    大谷「二刀流」あと1年での“強制終了”に現実味…圧巻パフォーマンスの代償、2年連続5度目の手術

  3. 8

    国民民主党は“用済み”寸前…石破首相が高校授業料無償化めぐる維新の要求に「満額回答」で大ピンチ

  4. 9

    野村監督に「不平不満を持っているようにしか見えない」と問い詰められて…

  5. 10

    「今岡、お前か?」 マル秘の “ノムラの考え” が流出すると犯人だと疑われたが…