「よその島」井上荒野著
西荻窪で骨董店を営んでいた碇谷芳朗と蕗子夫婦は、店の客だったミステリー小説家の野呂晴夫とともに島に移住した。その移住話を野呂が持ち出したとき、芳朗は「殺人者」の逃亡先として、それを選んだのだ。島の家の住み込みの家政婦、仙崎みゆかと顔を合わせたとき、芳朗はこの女を知っているような気がしたが、それは誰にも言わないほうがいいと思った。
芳朗の脳裏に30年以上前の記憶が蘇った。あのマンションのベランダには、ラベンダー色で、ラッパを吹く天使のモチーフがある手すりがあった。その手すりを、青いマニキュアをした女の手が握っていた。
読み手を心の迷路に誘い込むサスペンス小説。
(中央公論新社 1700円+税)