「すくえた命」塩塚陽介著
「すくえた命」塩塚陽介著
もしかしたら、途中でページを繰る手が止まってしまうかもしれない。それほどむごたらしい事件の全貌と、警察のズサンな対応がつづられている。
2019年10月。福岡・太宰府市で平凡な主婦・高畑瑠美さんが変死体で見つかった。死因は外傷性ショック死で複数箇所にアザやケガがあり、継続的に暴行されていた様子がうかがえた。
やがて、山本美幸40歳と岸颯24歳(傷害致死罪などで起訴)の2人が逮捕され、福岡県警の捜査によって次々と悪事が白日の下にさらされていく。山本からの同居強要、恐喝、洗脳、暴力の日々。瑠美さんが夜中に出歩き、金の無心をしだした当初から、家族は「十数回も鳥栖警察署に相談に行った」が、「家族間で話し合って」「事件にできない」の一点張り。山本から3時間に及ぶ脅迫電話を受けたことを訴えると「どこが恐喝にあたるのかテープ起こしを」と言われたという。対応したのはすべて同じ巡査長。そして、瑠美さんの「すくえた命」は消えた。
複雑に入り組んだ事件の背景をつづりながら、遺族の無念さ、決して非を認めない佐賀県警、やがて局内で孤立していく著者の葛藤までもがリアルに迫ってくる。
ローカル局の若き記者による太宰府主婦暴行死事件を追った渾身のノンフィクションだ。
(幻冬舎 1870円)