伝説のドキュメンタリーに映る平和だった世界
「エンドレス・サマー デジタルリマスター版」
7月に入ったとたん、うだるような暑さ。そこに折よくリバイバル公開されたのが「エンドレス・サマー デジタルリマスター版」だ。1966年、20歳そこそこの若者ふたりが理想のサーフィンスポットを探して世界を旅した伝説のセミドキュメンタリーである。
青い海にさかまく大波。滑走するボード、爽快に波を切る肩幅の広い若者たち。そんな典型的なサーフィン映像はこの映画から始まった。
監督のブルース・ブラウンは当時26歳。既に何本かのサーフィンドキュメンタリーを製作していたが、ボードを小脇に世界観光という趣向もあって本作は大ヒット。古典中の古典の地位を獲得した。
半世紀以上経って改めて見直すと、いまなおひけを取らない映像の清新さに驚く一方、なんともいえぬ感慨もある。北米から西アフリカのセネガル、ガーナ、ナイジェリア、南ア、豪州、ニュージーランド、タヒチ、ハワイと渡り歩くマイクとロバートは、飛行機にはスーツにネクタイ姿で乗る。旅先の人々はみな素朴な笑みを浮かべ、波と戯れる異人の姿に笑いころげる。
世界はほんとうに平和だった。いまスクリーンに映るこの世界は、二度と戻ることはないのだとつくづく思い知らされるのだ。
実はこの映画のもうひとつの価値が音楽。テーマ曲を演奏するのはザ・サンダルズ。ビーチボーイズ型の「陸(おか)サーファー」サウンドでなく、本物の、ちょっと気だるい夕暮れの渚の気分があふれる。サンダルズがその後アシッド・ジャズのバンドに変貌したのも、むべなるかなだろう。
こうしてみるとサーフィンもまた同時代の対抗文化の重要な一部だったと思う。ロバート・C・コトレル著「60sカウンターカルチャー」(伊泉龍一訳 駒草出版 6930円)は当時の政治・社会・文化のからみを子細に描いた最新の労作だ。
<生井英考>