カルトと社会
「宗教と政治の戦後史」櫻井義秀著
安倍元首相射殺事件の記憶は薄らいでもカルト宗教の存在は消えてはいない。
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「宗教と政治の戦後史」櫻井義秀著
ニュース報道の世界でカルト宗教といえばオウム真理教を抜いて、いまや統一教会がダントツの注目。特に安倍派との深い関係が安倍射殺の主因になったのはよく知られる通りだ。本書は統一教会をはじめ、憲法改正を悲願とする日本会議、政権与党にもぐり込んで長い公明党の3者を取り上げて、戦後政治における宗教問題に真っ向から斬り込む。
韓国で生まれた統一教会はキリスト教系だが異端。しかし1950年代に入信した軍人たちがその後KCIA(韓国情報局)入りする。軍政の朴正煕政権は反共を掲げる統一教会をフロント組織に利用したのだ。さらに旧日本軍の将校だった朴の人脈から日本の反共保守陣営に深い関わりが生まれた。これが安倍政権につながるのだ。
日本会議の起源は「日本を守る会」と「日本を守る国民会議」。前者は70年代に臨済宗、曹洞宗、神社本庁など伝統的宗派と生長の家など新宗教が合同で設立。60年代の学生運動への反発と危機感から宗教界が反動的なナショナリズムで結びついたのだ。いまや国会議員懇談会が約290人、地方議員では1800人、会員は全国で3万を超える規模になっている。
終章は創価学会と公明党。自民と連立を組むようになってから大新聞など主流派メディアは創価学会批判を避けるようになったのだ。単なる政党との結びつきだけでない怖さがここにある。 (朝日新聞出版 990円)
「宗教・カルト・法」島薗進ほか著
「宗教・カルト・法」島薗進ほか著
NHK・Eテレの番組「こころの時代~宗教・人生」。ここでカルト問題を不定期ながら特集企画として取り上げたシリーズの一部を抜粋・編集したのが本書。宗教学者を中心に法学者、弁護士、文学研究者らがさまざまな角度から宗教について話し合う。
宗教は本来、神や信仰と自分の関係を考え、さまざまな疑問との迷いや悩みも含めてゆっくり時間をかけるもの。しかしカルトは信者を急がせ、思考停止させる。教義を曲解して女性差別を正当化したりもする。本書の討論者のなかにカルトの経験がある人はいないようだが、カトリック教会の歴史にある女性差別や虐待などの例に悩むカトリック信者の発言など、当事者目線も反映されている。
日本の宗教法人法は1951年に制定された。当時は弱者保護の観点で制定された同法が、信者に対する宗教の抑圧や拘束が問題になっている現代とは不一致を起こしたりもしている。宗教と社会の関わりを多角的に論じた討論の記録だ。 (高文研 2200円)
「『信教の自由』の思想史」小川原正道著
「『信教の自由』の思想史」小川原正道著
近代国家に必要とされるのが自分で宗教を選び、信仰する自由だ。日本の宗教意識が弱いのは、民衆が国家や政府や教会の支配と戦って自由を獲得したことのない歴史に関わっている。
日本で初めて本格的な宗教法案が議会にかかったのは明治32(1899)年。欧米各国と通商条約を結ぶかたわら、キリスト教をあまり普及させたくない本音が含まれていた。他方で仏教界はキリスト教と同一視は不都合として法案に反対した。マスコミの論調も割れた。
本書は戦前の歴史に全体の6割を充て、戦後は政教分離を徹底し、新たに制定された宗教法人法がオウム真理教事件後に改正されるまでの経緯とその後に触れる。行政という観点から日本の政教関係や信教の自由について論じた著者は日本政治思想史を専門とする慶大教授だ。 (筑摩書房 1925円)