インド社会のさて?

公開日: 更新日:

「『モディ化』するインド」湊一樹著

 国際社会で急に存在感を増すインド。その正体は……さて?と疑問符だらけだ。



「『モディ化』するインド」湊一樹著

 インドを語る決まり文句が「世界最大の民主主義国」。しかし著者はこれに疑問を呈する。少なくとも現首相のナレンドラ・モディの時代にインドは急速に権威主義化し、ヒンドゥー至上主義になったからだ。

 モディは食用油の製造・販売を手がける「ガーンチ」というカーストの生まれで、子ども時代には父親のチャイ売りを手伝ったことを何度も語っている。しかし、著者はこれらの偉人伝エピソードにも粉飾があると見る。モディについて書く記者はしばしば警告の電話や圧力を受けたことで知られるらしい。謎の多い半生も不都合なことは隠蔽されているという。

 地方政治時代のモディの功績とされるグジャラート州の経済開発をくわしく分析し、「作られた成功物語」の面をあばく。政権獲得後の「モディノミクス」も実質失敗。それでもモディの権威化は衰えない。なにより10年間のモディ政権でインドの大国幻想が広まったからだ。

 著者はジェトロで南アジアを担当する経済アナリストだ。 (中央公論新社 1980円)

「ノープロブレムじゃないインド体験記」山田真美著

「ノープロブレムじゃないインド体験記」山田真美著

 ベビーブーム世代の著者がまだ花の女子大生だったその昔。観光ガイドのアルバイトでたまたま知り合ったインド人との縁で1990年代末、インドに留学することになった。既婚で子育て中の身ながら家族全員でインドに暮らしたというから面白い。とにかく押しが強く、自己愛が強く、具合が悪くなると「ノープロブレム」で逃げようとするのがインド人。でもなぜか憎めない。既製服よりオーダーメードの方がなぜか安く、常連客だとなぜか値段をふっかけてくることも珍しくないらしい。「フツー、お得意さんにはお安くというものじゃね?」と思うが、インドではちゃんと騙されない知性が必須というわけか。

 運転免許は最近でこそICチップ付きになったが、更新期限はなんと20年後。つまり20歳で取得した運転免許の写真は40歳になってもそのままなのだ。

 インド工科大で客員准教授の著者。抱腹絶倒の半生記である。 (笠間書院 1980円)

「超大国インドのすべてがズバリわかる!」榊原英資、小寺圭著

「超大国インドのすべてがズバリわかる!」榊原英資、小寺圭著

 高齢世代ならインドといえばガンジー、そしてネールだろう。しかし、具体的にどんな人物かといえば心もとないはず。本書は対談形式でわかりやすく初歩的な知識を授けてくれる。インドの経済躍進は1991年の経済危機から。同じころ改革開放路線に転じた中国に多くを学び、今世紀に入り地方政治から頭角を現したモディが台頭した。

 インド人は世界の「三大商人」のひとつ。ユダヤ人は押しが強くて意欲的。中国人はソフトな外見と老練な手腕で相手を抱き込む。そしてインド人は論理的で計算高い。いまだけを考え、明日はまた明日の話と割り切るという。

 著者の2人は元大蔵省財務官とソニーの海外法人を歴任したビジネスコンサルタントだけに、硬軟とりまぜた会話は読みやすい。 (ビジネス社 1760円)

【連載】本で読み解くNEWSの深層

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  2. 2

    “氷河期世代”安住紳一郎アナはなぜ炎上を阻止できず? Nキャス「氷河期特集」識者の笑顔に非難の声も

  3. 3

    不謹慎だが…4番の金本知憲さんの本塁打を素直に喜べなかった。気持ちが切れてしまうのだ

  4. 4

    バント失敗で即二軍落ちしたとき岡田二軍監督に救われた。全て「本音」なところが尊敬できた

  5. 5

    大阪万博の「跡地利用」基本計画は“横文字てんこ盛り”で意味不明…それより赤字対策が先ちゃうか?

  1. 6

    大谷翔平が看破した佐々木朗希の課題…「思うように投げられないかもしれない」

  2. 7

    大谷「二刀流」あと1年での“強制終了”に現実味…圧巻パフォーマンスの代償、2年連続5度目の手術

  3. 8

    国民民主党は“用済み”寸前…石破首相が高校授業料無償化めぐる維新の要求に「満額回答」で大ピンチ

  4. 9

    野村監督に「不平不満を持っているようにしか見えない」と問い詰められて…

  5. 10

    「今岡、お前か?」 マル秘の “ノムラの考え” が流出すると犯人だと疑われたが…