川上宗薫「肌ぐるい」(祥伝社文庫・平成13年6月20日発行から)
【あらすじ】高校3年生の大宮建春は憧れの教師・織方瑞恵を見かけた。瑞恵はビル地下のスナックに消えた。彼はサングラスと白いマスクを買い変装してその店「カレン」に入る。そこで人妻・神部新子に逆ナンされ、童貞を失う。やがて瑞恵とも結ばれた建春は、妹の同級生や義姉と次々と性体験を重ねて……。
10代の狂おしい性の遍歴を描く長編官能ロマン。
建春は、女の乳房が、仰向けになると形をくずしているのを知った。彼は、その乳房を片手で揉みながら、初めての経験をすることになった。
つまり、女の下半身に唇を捧げたのである。建春は女のその部分を見ていた。それは、なにか気味のわるい軟体動物のようなものを、彼に連想させた。その軟体動物は、海に棲んでいる。
建春のその部分は、すっかり回復してしまった。建春は、女に求められるままにした。建春は、指も添えてやった。それから、女は、指をくぐらせるように、建春に要請した。
彼は、その要請に応えた。彼の一本の指は、ゆるい感触を覚えていた。
「二本使って」
建春は、さらに一本を追加した。女の体がのけぞっていた。
そして、女の片手が、自分の頭髪をかきまぜるようにしているのを、建春は感じた。そして、もう一方の手は敷布を把んでいた。放射線状の皺が、把まれた敷布に深く刻まれていた。
建春は、もう我慢できなくなった。彼は頭をもたげた。指も引き揚げさせた。そして、彼女の上に覆いかぶさっていった。
建春は、楽に迎え入れられていた。果てて間もないために、彼は、すぐに果てたりはしなかった。彼は、<自分は女とやっている>と思った。
女の両手が、建春の頭髪をかきむしっていた。そして、女の両手は、建春の肩、背中へと移っていった。
彼女は、また高い声で「GO」を意味する感嘆詞を吐き、そして、「すてき」と言った。
建春は、一分保つか保たないか、だった。彼は軟弱になってゆき、やがて、放り出されていった。
「ボク、もっとできるでしょ?」
「できるよ」
建春は、何度でもできそうな気がした。
▽かわかみ・そうくん 1924年、愛媛県生まれ。九州大学卒。純文学作家としてたびたび芥川賞候補になるも受賞せず。1968年から官能小説を書くにあたっては、必ず取材(性体験)をしたことで知られる。85年没。61歳。