BPO新委員・鈴木嘉一氏が語る テレビ業界の異常事態
民放「横並び」でたどる縮小再生産の道
民放の番組編成について一言で言えば、相変わらず「横並び」が目立つ。「どこも似たり寄ったり」という批判自体、マンネリですけれどね。
お笑いタレントたちがずらりと並び、VTRの映像を見ながら、内輪で面白がる“ひな壇バラエティー”がそうです。出演者の表情をワイプ(別画面)で映し、スーパーインポーズ(字幕)を多用する演出手法も同じ。多くの制作者が「バラエティーとはこういうものだ」という固定観念で凝り固まっているんじゃないか。
最近の傾向は、バラエティー番組の長時間化ですね。各局とも春と秋の番組改編期には人気番組のスペシャルをぶつけていましたが、今や、改編期でもないのに2~3時間の拡大版が当たり前になっています。
しかし、その陰では別のレギュラー番組が放送を休むことになる。毎週楽しみにしている視聴者を思えば、「お祭りの日常化」は好ましくないでしょう。
プライムタイム(19~23時)のドラマに目を向けると、1クール(3カ月)の連続ドラマか、ミステリー中心の2時間ドラマばかりです。放送形式の幅が狭まっているので、表現できる内容も限られます。かつてフジテレビが開局45周年記念番組として「白い巨塔」のリメーク版を半年間放送したように、2クールに挑む意欲作は見当たりません。2~3夜連続のスペシャルドラマも、めったに放送されません。
連続ドラマの中身でも、今年は刑事ドラマが氾濫しています。「相棒」を軸にしたテレビ朝日の刑事もの路線が中高年層に支持され、視聴率を稼いでいるからでしょうが、供給過剰だと共倒れになるのは目に見えています。その一方で、若い世代向けのラブストーリーは激減しています。民放は「過剰」と「過少」を繰り返しているんですよ。
横並び現象は、佐村河内守氏(写真)の代作問題への対応にも見られます。テレビ東京を除く民放キー局は「全聾の天才作曲家」として持ち上げ、結果的に虚像を増幅させる役割を担ってしまったわけです。取り上げた番組で一応おわびをしたものの、NHKのように調査結果を番組やウェブで公表した局は一つもありません。なぜ彼の嘘を見抜けなかったのか、自己検証が必要なのに、どこもやり過ごしています。
各局がこうした現象に安住していると、テレビ番組は“縮小再生産”の道をたどりますよ。
▽1952年千葉県生まれ。放送評論家・ジャーナリスト。元読売新聞東京本社編集委員。6月からBPOの放送倫理検証委員会委員に就任。著書に「大河ドラマの50年」「わが街再生 コミュニティ文化の新潮流」など。