稽古後は仲間と激論 流山児祥さん「演劇と酒とは不可分」
稽古場ではともかく、最近は役者も含めてまったく飲まない演出家が増えてるから、俺にしてみると物足りないところはあるよ。酒の力を借りるわけじゃないけど、酒の席でないと分かり合えないことって多い。本音と本音がぶつかり、その結果「殴り合い」になり、「流血騒ぎ」になったとしても、それで関係性が良くなるってことだってたくさんあるもんだったしね。
■酒を飲まない寺山修司が乾杯の音頭
とくに俺たちの仕事って、生身の肉体を使って表現するんだから、うわべだけ飾るなんてもってのほか。ある面、純粋なんだと思う。そんな中で一番印象的なのが演劇実験室◎天井桟敷を主宰していた作家で歌人でもある寺山修司さん。
70年12月に渋谷の喫茶店に呼び出されて以来の付き合いだったけど、俺が作った「演劇団」が79年に第1次解散した際のパーティーでは、乾杯の音頭をとってくれたんだ。あの時のことは今も鮮烈に思い出すね。だって、肝硬変を患って入院する直前。普段はビールどころか酒を一切飲まない人だったから。
そして「流山児祥はこれから重賞レースを目ざす。世界へ征け!」と、やや落ち込み気味だった俺に「檄」を飛ばしてくれた。「重賞レース」って言葉が出るあたり、大の競馬好きだった寺山さんの面目躍如だけど、それが91年から始まる25年続いている海外公演のきっかけとなったんだ。酒が結ぶ縁はこれからも大事にしていきたいもんだね。