黒田福美が語る伊丹十三監督 伝説の“生卵口移し”秘話も
■「女優をやめてもいい」と思っていたからできた
それが「お葬式」(84年)に続く監督第2作の「タンポポ」(85年)です。ラーメン店が舞台で挿話の一つ、役所広司さん演じるギャング風の白服男の情婦を演じました。4シーンに出ましてセリフはピストルで撃たれた白服男を介抱する時だけ。他はト書きしかありません。話題になった役所さんと卵の黄身を交互に口移しするシーンも細かい描写はなかったですね。
実は最初の打ち合わせにお邪魔した時、伊丹さんに「大滝秀治さんの愛人役と白服の情婦役と、どちらにする?」と聞かれたんです。愛人役はストーリー上、どういうふうに演じたらいいか、それまでの経験で“見えた”んですが、情婦役はよくわからない。「だったら、こっちの方が面白い」。そんなふうに考えて選ばせてもらいました。
「いつ女優をやめてもいい」と思っていましたから失うものなどない。細かい指示もなかったため、いただいた役を私なりに解釈して演じたのが黄身のシーンでした。公開されるとそれが思わぬ大反響。その後「日立 世界ふしぎ発見!」(86年~、TBS系)の初代ミステリーハンターに抜擢され、中山美穂さん主演の「な・ま・い・き盛り」(86年、フジテレビ系)はじめ、ドラマや映画のオファーが増え、女優として手応えを感じることができました。