サカイCMの名脇役・徳井優を変えた井筒監督“小田原事件”
しかも、この間、すぐそばで主役の緒形直人さんや故・フランキー堺さんら主立った役者さんがずっと出番が来るのを待ってる。それだけじゃありません。時代劇で夜間の重要なシーンやからスタッフは通常より何倍も多くて真夜中なのに総勢50人ほど。
にもかかわらず、僕の演技力のなさで現場を止めている。とてつもないプレッシャーでした。何十回やってもOKが出ない。どう演じていいのかまったくわからん。もうボロボロ。そのうちスーッと視界が遠くなり周囲がかすんできました。結局その日はOKが出ないまま、空が白みだした4時すぎに打ち切られ、後日再撮影になりました。
憔悴して宿泊先に戻ると、先に帰っていたフランキーさんが「大丈夫か」と気遣ってくださいました。本来なら時間をかけてメークし、一晩中重い鎧を着てスタンバイしてたんですから、怒鳴られても不思議じゃない。当時、僕は31歳。かたやフランキーさんは62歳の大御所……。それだけ異常な現場やったんですよ。
■翌年にオンエアされたCMが話題に
井筒監督と初めて会ったのは81年に公開された「ガキ帝国」です。京都の東映俳優養成所を卒業後、アルバイトをしながら俳優を目指していて、乱闘シーンのエキストラで出演。監督はまだ雲の上の存在でした。上京後、脚本を担当された西岡琢也さんのツテで、「晴れ、ときどき殺人」(84年)の撮影現場に挨拶に行ってから、2、3カ月に一度、監督の自宅へ遊びに行きだしました。そのうち監督の作品に呼ばれるようになり、そして小田原“事件”ですわ。