素人には藤沢周平の短編集を脚色する課題を与えるべきだ
碓井 最近も「北の国から」の杉田成道さんが、藤沢さんの「橋ものがたり」を映像化しましたね。藤沢作品は物語の骨格がしっかりしています。しかも、事細かな心理ではなく登場人物たちの行動が描かれていきます。その行間を読むように想像力を働かせるのは、とてもいい脚色の訓練になると思います。
倉本 そうでもしないと、本当のシナリオライターは育たない。それをいまのテレビ業界は全く分かっていないんです。
碓井 いわゆる倉本ドラマはベースとなるストーリーを作ったのも、それを撮影台本に変えたのも先生です。でも、その先には演出家や役者さんがいるわけですよね。最終的に視聴者が見るものと、もともとの脚本との間に落差が生まれたりしませんか。
倉本 その落差も予想しながら、織り込みながら書いているってことはありますね。
碓井 たとえば「やすらぎの郷」の中で、ちょっと気になった場面があったんです。藤竜也さんが演じる高井秀次(高倉健を思わせる、任侠映画などで活躍した寡黙な俳優)がやすらぎの郷に入居することになって、女性陣は喜ぶわけです。とはいえ10代、20代の女の子じゃないから、感情をむき出しにしてキャーキャー喜んだりはしないはず。それなりに見えもあるから、「あ、そうですか」って感情を抑える。本来なら内心の喜びがにじみ出ちゃうのがおかしいっていう表現にならなきゃいけないと思うんですが、オンエアを見たら、皆さん、ハシャギ回っていました(笑い)。