「流転の王妃」愛新覚羅浩が乗り越えた政略結婚の生き地獄
浩の試練は帰国後も続く。本作の冒頭のとおり、長女の慧生(19歳)は57年12月、天城山中で同じ学習院大の大久保武道とピストル心中し、「天国に結ぶ恋」と報じられた。また、自伝によると、浩は本作の制作にあたって満州国の宮内府の造りやしきたりについてアドバイスし、日吉の慶応大で行われたロケには毎日顔を出したという。
余談ながら、軍部が浩を満州国に嫁がせたのは溥儀の跡目を狙ってのことだった。子供のいない溥儀の跡を溥傑が継げば浩の子がその後継となる。日本の血を受けた男子が皇帝になるともくろんでこその政略結婚だった。だから溥儀は命の危険を覚え、浩を警戒した。やはり侵略戦争は薄汚い。
(森田健司/日刊ゲンダイ)