「あなたの番です」も…“猟奇殺人犯”が多用されるワケ
「類似品が腐るほど再生産されるのは、作り手も演者も楽だからでしょう」と、映画批評家の前田有一氏はこう続ける。
「サイコパスの猟奇殺人犯は、記号的にはファンタジー映画のモンスターと一緒で、何でもアリ。設定に多少無理があっても『だって普通じゃないもんね。仕方ないよね』で済まされてしまう。犯人を猟奇殺人犯にしておけば、どこにも角が立たない。視聴者から『職業差別だ』なんてクレームが入るリスクも少ないわけです。その点、動機がある殺人ドラマは、見る側を納得させる心理描写が難しい。作り手の力量が問われます」
犯人を猟奇殺人犯にしておけば、コンプライアンスがどうだ、ポリティカル・コレクトネスがどうだ、とかに頭を悩ませる必要もなくなる。
「サイコパスという言葉自体あまり知られていなかった時代に、ゼロからレクター博士をつくり上げたアンソニー・ホプキンスはさすがですが、今は猟奇殺人犯の演技のお手本がいくらでもある。演者も楽でしょう。ただ、犯行がバレた途端に狂ったように高笑いする犯人が多いのはいかがなものか……。いずれにせよ猟奇殺人犯に頼りすぎ、動機など心理描写の部分をおろそかにしていると、日本のドラマも映画も深みがなくなるばかりです」(前田有一氏)
もちろん、2017年公開の映画「三度目の殺人」(是枝裕和監督)のように猟奇殺人犯に頼らない秀作もあるが、それは役所広司や広瀬すずの演技力があってこそか。