弟子に対しても対抗心…落語家は大人げないほど負けず嫌い
「鈴本の10日間、僕は毎日ネタを変えました。すると、師匠も張り合うように変える。末広亭の5日目まで15席ずつ演じた後、師匠に、『そろそろやめましょうよ』と言ったら、『もうギブアップか』と笑って、『俺は50日間、毎回変えるつもりだった』と言う。当時から師匠は持ちネタが100席超えてましたから、50席くらいじゃ驚かないんです」
落語家は弟子に対しても対抗心を燃やすものだ。それがなければ、芸が停滞してしまう。私が顧問を務めた立川流家元、立川談志も、志の輔や談春と共演する際、大人げないほど張り合った。
「そう。大人げないほど負けず嫌いなのが落語家なんですよね。ネタ数が多い師匠を見習ったおかげで、僕もネタが増えて、出し物で苦労したことがない」
寄席での披露興行が終わると、全国のホールで興行を催した。その結果として、一之輔を見に来た多くの落語ファンが、一朝の芸に魅せられファンになったという。
「ずいぶんお客を取られました(笑い)。でも、師匠の凄さに気付いてくれたのはうれしいですね」