ドラマ「あなたのそばで明日が笑う」進む速度は人それぞれ
東日本大震災から10年。いくつもの関連番組が並ぶが、6日放送の特集ドラマ「あなたのそばで明日が笑う」(NHK)は静かな佳作だった。
真城蒼(綾瀬はるか)の夫、高臣(高良健吾)は震災で行方不明となった。また高臣と義母(阿川佐和子)が営んでいた書店も流された。10年間、息子を育てながら必死で資金を貯めた蒼は新たな店を開こうとしている。あらすじを書けば、それだけだ。しかし、この小さな物語は被災地と、そこに生きる人の10年をしっかり包み込んでいた。
高臣が見つかっていないこともあり、蒼は今も帰りを待ち続けている。夢で会えた時はうれしい。それでいて、高臣の声や言葉を忘れかけている自分に愕然とする。書店も、完成間近になって「(店を開くと)高臣がもう帰ってこない気がする」と立ち止まってしまう。
過去と現在。記憶と忘却。整理することのできない感情が揺れ動く蒼を、綾瀬が丁寧に演じていた。
終盤、書店づくりで出会った建築士、葉山瑛希(池松壮亮)が言う。「あなたが思い出すことを僕も思い浮かべたい」と。蒼は「近くにいることが、そばにいることじゃない。遠くにいても寄り添うことはできる」と答える。
脚本の三浦直之は、被災者同士でさえ安易に分かり合わせたりしない。だが、義母の「進む速度は人それぞれ」という言葉で救っている。10年もまた通過点のひとつだ。