著者のコラム一覧
荒木経惟写真家

1940年、東京生まれ。千葉大工学部卒。電通を経て、72年にフリーの写真家となる。国内外で多数の個展を開催。2008年、オーストリア政府から最高位の「科学・芸術勲章」を叙勲。写真集・著作は550冊以上。近著に傘寿記念の書籍「荒木経惟、写真に生きる。荒木経惟、写真に生きる。 (撮影・野村佐紀子)

樹木希林さんの思い出<1>顔より手のほうがいいわけじゃ…

公開日: 更新日:

 大好きなんだよ、樹木希林さん。最初は手指だったんだ。希林さんの手指、きれいだったね。思わずシャッターを押してしまったんだよ。15年ぐらい前かな、演出家の久世(光彦)さんの葬儀のときだよ(2006年3月7日に文京区の護国寺で葬儀が営まれた)。

 久世さんの遺影は亡くなる1ヶ月前にオレが撮った写真なんだよね。雑誌で男の顔を撮っていて、その撮影のすぐ後に亡くなってしまったんだよ(雑誌『ダ・ヴィンチ』の連載「アラーキーの裸ノ顔」)。撮影が一旦終わって、そうしたらヘビースモーカーだからタバコ吸いたいって言い出して、それがいいってまた撮らせてもらった。本人も「今日は遺影を撮ってもらう気で来たけれど、いやあ、これはちょうどいい」なんて言ってたら、本当にそうなっちゃった。雑誌に掲載される前に、突然亡くなってしまったんだよ。実はオレが撮る前に遺影は決めてあったらしい。ところが奥さんと息子さんがオレの写真を見て、うちの親父はこっちだって言って、出版社に電話をかけてきてね、遺影になったんだ。

手に、そのときの本人も、久世さんに対しての哀悼も写っているわけ…

 出棺の前に、希林さんとちょっと立ち話をするときがあってね。希林さんが「花の写真集を買ったから」って、寄ってきてくれて、京都で花の展覧会を見てきたって言ってくれたんだ(2002年、個展「花人生」 何必館・京都現代美術館)。「あれはアラーキーしか撮れないわよね」って話をしてくれたわけよ。

 前から好きだったけど、ますます好きになったね。それで、しばらく話して、出棺のときに二人並んで出ていったわけ。前を通って行くときに、希林さんがちょうど手を合わせてね。そのときに、シャッターを押したんだ。手指がすっごくきれいだったの。

 普通は初めて撮るんだから、顔からいかなくちゃいけないんだけどさ。でもその手指がすごく“自分でつくった手”になってたんだ、女優のね。手に、そのときの本人も写っているし、久世さんに対しての哀悼も写っているわけ。写真家の度量とか目利きとかで、最初にその人のどこを撮るかというのも、決まるわけだよね。顔よりも手のほうがいいというわけじゃないんだけど、手ですごく表現しちゃってるなって思ったんだ。だから撮ったんだよね。 =つづく

(構成=内田真由美)

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • 芸能のアクセスランキング

  1. 1

    松本人志「事実無根」から一転、提訴取り下げの背景…黒塗りされた“大物タレント”を守るため?

  2. 2

    島田洋七が松本人志復帰説を一蹴…「視聴者は笑えない」「“天才”と周囲が持ち上げすぎ」と苦言

  3. 3

    人気作の続編「民王R」「トラベルナース」が明暗を分けたワケ…テレ朝の“続編戦略”は1勝1敗

  4. 4

    小泉今日子×小林聡美「団地のふたり」も《もう見ない》…“バディー”ドラマ「喧嘩シーン」への嫌悪感

  5. 5

    兵庫県知事選・斎藤元彦氏の勝因は「SNS戦略」って本当?TV情報番組では法規制に言及したタレントも

  1. 6

    松本人志が文春訴訟取り下げで失った「大切なもの」…焦点は復帰時期や謝罪会見ではない

  2. 7

    窪田正孝の人気を食っちゃった? NHK「宙わたる教室」金髪の小林虎之介が《心に刺さる》ファン増殖中

  3. 8

    井上真央ようやくかなった松本潤への“結婚お断り”宣言 これまで否定できなかった苦しい胸中

  4. 9

    菊川怜が選んだのはトロフィーワイフより母親…離婚で玉の輿7年半にピリオド、芸能界に返り咲き

  5. 10

    福山雅治は自宅に帰らず…吹石一恵と「6月離婚説」の真偽

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    西武ならレギュラー?FA権行使の阪神・原口文仁にオリ、楽天、ロッテからも意外な需要

  2. 2

    家族も困惑…阪神ドラ1大山悠輔を襲った“金本血縁”騒動

  3. 3

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  4. 4

    兵庫県知事選・斎藤元彦氏の勝因は「SNS戦略」って本当?TV情報番組では法規制に言及したタレントも

  5. 5

    小泉今日子×小林聡美「団地のふたり」も《もう見ない》…“バディー”ドラマ「喧嘩シーン」への嫌悪感

  1. 6

    国内男子ツアーの惨状招いた「元凶」…虫食い日程、録画放送、低レベルなコース

  2. 7

    ヤンキース、カブス、パドレスが佐々木朗希の「勝気な生意気根性」に付け入る…代理人はド軍との密約否定

  3. 8

    首都圏の「住み続けたい駅」1位、2位の超意外! かつて人気の吉祥寺は46位、代官山は15位

  4. 9

    兵庫県知事選・斎藤元彦氏圧勝のウラ パワハラ疑惑の前職を勝たせた「同情論」と「陰謀論」

  5. 10

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇