<19>自伝をドン・ファン自ら2000部購入し仕事の関係先に押し売り
ただ、私の考え方は甘かった。彼は購入した本を仕事の関係先に売りつける策に出たのだ。プレゼントをするのではなくて金を取ったのだ。大量購入だったので割引されてはいたが、その額は知れている。定価で売ったところで、儲けることはほとんどできない。しかし、取引先に対して「買わないのなら今後の取引を考える」と半ば脅し、従業員たちに売りに行かせたのである。
「いやあ、取引先の営業所に行って『10冊買って下さい』とか、とんでもないことを言いに行くんやから大変やって」
社長の会社「アプリコ」の番頭格・マコやんが電話でこぼした。
「それじゃあ、まるで押し売りじゃないですか」
「そうやで。社長は相手のことなんか気にせん性格やから、ワシら従業員が困っとるわけや」
さすがに売り上げのノルマは課されなかったので従業員たちも少しは助かったようだが、そもそも本を売りつけるという発想は常人には思いもつかないだろう。それでも売れ残った本が多かったため、今度は社長が自ら宴会やパーティーなどで配るようになった。