飯野矢住代誕生秘話<13>「姫」を辞めたはずが身重の体で高田馬場のスナックに
「高田馬場で酔っぱらってね。立小便するために暗い路地をさがしてたら、その店があったんでトイレ借りに入ったんだ。すると、どこかで見た顔の、背の高い女がいるんだなあ。びっくりしたよ。元ミス日本一の飯野矢住代なんだよ。
ハキダメにツル、といいたいところだが、あの場末の店で、けっこうそれなりにおさまっているんだ。大きなお腹つき出して、オシボリ出したり、“ハイ、二十円のオツリ”なんてやってるんだからね」
産休に入ったと思われた矢住代が、銀座の「姫」ではなく、高田馬場のスナックで働いていたのである。
「着物を着て、帯をキッチリと結んではいるものの、お腹のせり出しぐあいは隠しようもない。(略)近くの製薬会社の工員たちがガヤガヤ集まっているが、このウェイトレスが“日本一の美女”とは誰も気づいていない感じなのだ」(同)
解せないのは、矢住代がこのタイミングで働き始めたことだ。ジョニーの月給だけで生活が賄えなかったとしても、8カ月の身重なのである。それまでバンス(前借り)を重ねてきたのだから、当座の生活費に充てるべきだろう。事実、山口洋子は「身二つになればまた働いてもらうつもり」(同)と証言している。洋子にとってもナンバーワンホステスが、一段落ついて店に戻ってきた方が好都合に違いない。