ダニエル・クレイグのボンド引退作「007」もこの世の不条理を嘆いとった
「へぇ、ボンドが世界征服企む悪党をやっつけるだけでそんな長いんか」と聞き返すや、「いや、前作の『スペクター』っていうのを先にかじっとかないと最初、戸惑いますよ」と。「目の保養になるん?」とまた聞くと、「目も疲れるし頭も疲れました。最後は主演のダニエルもミサイルでぶっ飛ばされて、お役御免となってました」と。
やれやれ、芸術の秋なのに、「007」ぐらいしかないのか。ならばといつもより重たい腰を上げ、久しぶりに映画館へ。彼ほどハシゴする体力はないが、もう一本ないかと探したが、木村拓哉の「マスカレード・ナイト」くらいしか選択肢がない。都市ホテルのパーティーに紛れ込んだ殺人犯を捕まえる潜入捜査官がどうしたこうしたとか。何が悲しくてそんなたわいないおとぎ話につき合わなきゃならないのかとため息だけついて、仕方なくダニエル・ボンド引退作を見届けることに。
感想は、ひどく手抜きのスジ運びで、目まぐるしさに疲れただけだった。日本とロシアの間にある無人島(千島列島か?)の秘密基地で、身上不明な小悪党がマッド科学者に開発させた「触れたらすぐ死ぬ」ナノ細菌兵器とやらを世界にバラまかれないうちに(当たり前だが)ボンドが乗りこんで行く、1時間40分もあれば決着つきそうな話だった。米国人が見たら中国の武漢研究所のことかと疑うかもだが、こんな劇画に3億ドルもかけて世界中でその何倍も稼ぐアクロバットみたいな映画で、大衆は何を得るのかと改めて悩みながら外に出た。
ボンドも爆弾の犠牲になったようだ。若い女がかすれ声で歌う主題歌が「もう死ぬ間さえも残されていない」とこの世の不条理を嘆いとったよ。