著者のコラム一覧
大高宏雄映画ジャーナリスト

1954年浜松市生まれ。明治大学文学部仏文科卒業後、(株)文化通信社に入社。同社特別編集委員、映画ジャーナリストとして、現在に至る。1992年からは独立系を中心とした邦画を賞揚する日プロ大賞(日本映画プロフェッショナル大賞)を発足し、主宰する。著書は「昭和の女優 官能・エロ映画の時代」(鹿砦社)など。

「バットマン」新作で振り返るナゾの興行史 正義vs悪だけでは計れない

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 バットマン映画の新作である「THE BATMANーザ・バットマンー」が公開中だ。バットマンは、日本人には馴染み深いが、国内ではある一定した興行を展開するケースが多く、これがなかなか興味をそそる。実写版はだいたい興収8億円から10億円台(幅はある)が大部分で、堅実ではあるが、頭抜けた大ヒットというわけにはいかない。

 ただ、1本だけ突出している作品がある。ティム・バートン監督の「バットマン」(1989年公開)で配収(当時は興収発表ではなかった)は19億1000万円。今の興収換算でいえば、推定で35億円あたりと見ていい。いまだにこの作品が頂点であり、ほかは軒並み8~10億円台にとどまる。

■鳴り物入りで公開されたバートン版「バットマン」

 バートン版「バットマン」は、まさに鳴り物入りの公開だった。宣伝の広告ではバットマンロゴがど真ん中に位置し、下に「バットマン BATMAN」のタイトルで統一されていた。バットマンの姿はない。ロゴとタイトルだけという斬新さでインパクトがあった。

「世界新記録」の文字が並ぶ広告も目立った。初日、土曜日、日曜日、ウィークエンド、1週間(いずれも興収)、前売り券売上数、表紙を飾った雑誌数、1億ドル突破最短日、2億ドル突破最短日……すべて当時の世界記録樹立というから凄まじい。この広告展開の威力のままに「バットマン」への期待は非常に高かった。

 その期待値からすると、配収19億1000万円は少し物足りなかったと記憶する。30億円、いや40億円あたりへの目算もあったからだ。振るわなかった理由は、ざっくり言ってしまえば、中身が暗過ぎたことが大きかったと思われる。

 バットマン(コウモリ)映画だから、ダークな描写の数々が魅力だったが、そのテイストが観客を少し選り好みした。それ以前の米映画で配収50億円以上は、「E.T.」(96億2000万円、1982年)と「ジョーズ」(50億2000万円、1975年)の2本のみで、明らかに「バットマン」とはテイストが違う。当時は、女性層(OL層ともいった)の支持を大きく受けないと、洋画はヒットが膨らまない。「バットマン」はその点が弱かった。

BTTF2という巨大な壁

 加えて「バットマン」公開時の89年12月には、スティーヴン・スピルバーグ監督が製作の指揮をとった「バック・トゥ・ザ・フィーチャー PART2」という強力なライバル作品があった。こちらは、配収55億3000万円で、興収換算なら100億円だ。米国の娯楽大作はスピルバーグ監督が圧倒的な興行力をもっていた時代であり、その巨大な壁を「バットマン」は打ち破れなかった。「バットマン」シリーズはバートン版が一つの定型となる。シリーズものの2作目は、1作目の70%ほどの興収になると言われていた時代である(そのジンクスも次第に崩れていくが)。数字が徐々に落ちていくのは必然であった。

 2000年代に入ると、クリストファー・ノーラン監督の3本が連打される。バートン版を一段とハードに、リアル感も加味したバットマン映画の登場だ。ここでバットマン映画の興行が大きく飛躍するかと思いきやバートン版を超えることはなく、興収10億円台の半ばから後半あたりで推移したのである。

 ノーラン版は中身のグレードを確実に上げたが、客層に大きな広がりは見られず、シリーズの定型化を揺り動かしたものの、興行の定型打破までには至らなかったといえよう。公開中の「THE BATMAN」は、公開11日で約8億円の興収を記録し最終では10億円台の半ばが狙えるが、バットマン映画の興行の壁はやはりあると見える。

■ジョーカーと絡めば…

 一つ、注目すべき点がある。バットマン映画ではなく、バットマンの敵役であるジョーカー単独主演の「ジョーカー」(2019年)が、興収50億円を超えて大ヒットになったことだ。国内におけるDC映画史上では、「スーパーマン」(1979年)と並ぶ最高水準の成績で、単純に数字だけを見れば、日本ではバットマン映画よりジョーカー映画のほうに人気がある。これは正義対悪の対決という構図や作品テイストだけではうかがい知れない興行の奥深さであろう。その意味からも、ジョーカー登場の有無含め、早くも伝えられ始めた「THE BATMAN」続編の展開いかんでは、バットマン映画の興行の歴史が変わるかもしれない。

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