中森明菜「伝説の歌姫」の40年…80年代が生んだ最大のアイドルの転落、57歳での再始動

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寂しい“晩年”…プロから絶賛された歌声はどこへ

 中森明菜はデビューしてから、ほとんどメディアのインタビューを受けていない。明菜のことを聞くには音楽関係者に直接取材するしかない。

 昨年、明菜の音楽の才能、ポテンシャルについて貴重な話を伺うことができたのは、作曲家の筒美京平さんと数々のヒット曲を世に送り出した編曲家の船山基紀さんの連載「船山基紀 ヒット曲の裏側 編曲家の仕事術」だった。

〈僕が初めて中森明菜さんに会ったのは、今はもうありませんが、六本木のセディックスタジオでした。デビュー曲「スローモーション」のレコーディングに、ディレクターがまだデビュー前だった明菜さんを連れてきたんです。

 彼女は、まだ16歳くらいだったと思います。フリルのついたブラウスに紺のブレザーを着て、普通の高校生という印象でした。

 レコーディングが終わって、ディレクターが明菜さんに「ちょっと歌ってみようか」と言ったんです。彼女は「はーい」って明るく返事をして歌いだしたんですけど、その声を聴いてびっくりしました。最初の印象とは全然違うんです。歌っている時の彼女の声は、とてもノビのある大人びた感じでした。しかも歌唱力がある。ハートのある歌い方は独特のものを感じました。見た目の印象と歌った時のギャップがとても面白いと思いました。「この子は売れる」と直感しましたね。

 歌がヒットして、売れた人は、大抵耳がいいんですよ。音楽センスもいい。だからこそ、その人にしかない強い個性が人の心を引きつけるんです。明菜さんも間違いなくその中のひとりですね。(中略)「スローモーション」は数々のヒット曲を手掛けた来生えつこさん・来生たかおさん姉弟が詞曲を書かれ、僕がアレンジを担当させていただきました。ピアノは今は亡き大谷和夫さんにお願いしました。

 この曲でデビューした明菜さんは、セカンドシングル「少女A」で一気にブレークしました。その後も目を見張るような快進撃を続け、瞬く間にスターの座を駆け上がりましたね〉(日刊ゲンダイ 2021年4月7日

 音楽プロデューサーの酒井政利が語った「歌詞に魂を吹き込むことができる稀有な歌手」とも符合することである。

■酒浸りの日々、キャンセル騒動…

 しかし、近藤真彦との破局と1989年の自殺未遂騒動を境に、歌手人生が暗転する。酒浸りの日々、激ヤセ、体調不良によるドラマ「ボーダー」の途中降板……。2010年にはディナーショーのキャンセル騒動を起こし、緊急入院してしまう。そしてその後、音楽活動を休止するのだが、その理由は免疫力の低下などによる帯状疱疹だった。

 この間、明菜を象徴する言葉として語られたのは「タバスコ」だった。ウオッカやテキーラをストレートであおり、持参したタバスコを丸ごと入れて飲むことがあると知人が証言するなど、明菜の生活は荒れていた。

 13年の誕生日(7月13日)、外に飲みに出かけることもなく、一人でバースデーを過ごした明菜がファンクラブの会報にこうつづった。

「日本にビッグタバ(タバスコの大瓶)売ってないのオ~!! あのでえ~かいタバスコがいいのにな…ない!」

 歌手にとっては喉は命。復帰するメドが立たず、イライラが募っていたのだろうか。明菜といえば、タバスコというイメージだけが残る晩年──寂しいことだ。

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