堺正章の圧倒的なカッコ良さと、二度とめぐり来ない時代へのあまやかな郷愁
■「芸能界誕生」刊行の背景
日刊ゲンダイ連載でもおなじみ戸部田誠さん(てれびのスキマ)の新作ノンフィクション「芸能界誕生」は、ぼくの思いに応える絶好の一冊。いま人々が「ザ・芸能界」として認識しているビジネスの黎明期と揺籃期を丹念に描く。
最大の読みどころは、元ザ・スパイダースのリーダー兼ドラマーにして田辺エージェンシー代表・田辺昭知の独占インタビューだ。ザ・芸能界の領袖のひとりである田辺さんの生きた言葉をまとめて読める機会はきわめてまれ。ぼくが「絶好の一冊」と言うゆえんでもある。
同書の起点は、58年2月開催の「第1回日劇ウエスタンカーニバル」に、その後のザ・芸能界の大立者が勢揃いしたという事実だ。公演主催の渡辺プロダクションの渡辺晋・美佐夫妻をはじめ、田辺昭知、その兄貴分である堀威夫(ホリプロ)、相澤秀禎(サンミュージック)、井澤健(イザワオフィス)……さながら芸能プロ紳士淑女録の趣。もっとも、当時の彼らは若手ミュージシャンや付き人なのだが。