俳優・山口馬木也さん「藤田まことさんは『飲め、飲め』と息子のようにかわいがってくれた」
主役の藤田さんが一番初めにお店に来て、もてなした
本題のお酒の話をすると、当時、昼は工事現場で働き、夜はバーテンダーをやってました。バーではよく飲んでいましたね。毎日、お客さんと一緒に飲みながらワイワイやっていた。
ただ、僕は飲めるタイプじゃない。2杯目には頭が痛くなる。無理やり飲んでいる感じでした。もちろん酔うまでいきません。
「剣客商売」に出るようになってからは、とにかく藤田さんにかわいがってもらいました。ご存じのように藤田さんはお酒の席が大好きでした。舞台が終わってから、仕事がない時は毎日です。今日は役者全員とか、主要なメンバーとか、音響チーム、編集チーム、スタッフチームと分けて毎日繰り出すんです。
藤田さんのことでもっとも印象的だったのは、主役で一番疲れているのに、みんなを招く藤田さんがいつも一番初めにお店に来て、もてなしていたことです。それを見て、人ってこういうことが大事なんだと教わった。僕もこういうふうにやらないといけないと思いました。
不思議なんですが、藤田さんが酔った姿を見たことがありません。あのまんま陽気でおしゃべりがうまくて終始、場を和ませる。ワインとか飲んでいたのかな。藤田さんが何を飲んでいたか、思い出そうとしても思い出せないです。そんな飲み方をする方でした。
僕はというと、藤田さんの息子みたいな感じでしたね。「馬木也、飲め、飲め」と言われると、「ハーイ」なんて甘えていたから。周りの人はそんな僕をヒヤヒヤして見ていたんじゃないかな。失礼なことはしないけど、藤田さんみたいにすごい人の懐に、あまりにも無邪気に入っていくから、大丈夫かと。
藤田さんは豪快なイメージがありますが、それも違っていました。車は持っていらっしゃらなくて、移動はいつもマネジャーさんとタクシーでした。時計なんか「これ、もらったんや」と喜んでいるので見せてもらったら、偽物のフランク・ミュラーだったり。洋服も「これが着やすい」と言っていたのがアバクロでした。物欲はまったくない方でしたね。お金を使っているのは人を連れての飲み食いくらいだったと思います。
飲めないとはいえ、失敗もあります。頭が痛くなるし、普通の酒では酔わないから、ある時飲んだのがテキーラです。それも気づかないうちにボトルを空けていた。もう記憶がありません。酔っぱらって道端で倒れていて、その場にいた人に助けられ、タクシーに乗せられてなんとか帰ったようです。目が覚めたら、俺、どうしちゃったんだろう、ここはどこ、という状態だったですね。