『ANORA アノーラ』底辺ストリッパーが挑む、コワモテ用心棒&女たちとの壮絶バトル
前半のロマンスが後半で女の苦難に激変
愛した男は贅沢を味わわせてくれるボンボン。ところがこのボンボンの出自が悪かった。ロシアの大金持ちの一人息子なのだ。いわばオリガルヒの一員だ。
当然ながら背後に暴力の影がちらつく。案の定、お坊ちゃまの後見人たちが甘い生活に乗り込んでくる。コワモテの彼らは一種の用心棒だ。ロシアの大親分の指示を受けているため、ボンボンをストリッパーと別れさせなければ自分たちの命が危うい。そこで強引にアノーラを引きはがそうとする。
だが「はい分かりました」と引き下がるアノーラではない。そこは体を張ったストリッパーのド根性。やっとつかんだ幸せを手放すものかと持ち前の気の強さを発揮し、「クソはあんたよ。くたばれこのゲス野郎!」と怒鳴り散らす。さらに女だてらの大立ち回りを繰り広げる。用心棒の股間を蹴り上げ、突き飛ばし、相手の鼻の骨をへし折るのだ。
先ほど熱演と書いたが、本作におけるマイキー・マディソンの演技の神髄はベッドシーンだけでなく、豪邸の家具をぶっ壊しながら抵抗を続ける壮絶バトルにある。快楽を分かち合う演技と、屈強な男どもを撃退しようとする演技。どちらもくんずほぐれつの肉弾戦だ。
彼女がロシアの大男と戦っている間、くだんのお坊ちゃまはどうしているのか。なんと、親が怖くて逃げ出したのだから、情けないバカ男だ。このバカ男を街中で探し出そうとするのが後半の主要テーマである。前半のロマンスが後半で女の苦難に激変するのが本作の醍醐味だ。