『ANORA アノーラ』底辺ストリッパーが挑む、コワモテ用心棒&女たちとの壮絶バトル

公開日: 更新日:

アノーラは3正面作戦を戦っているのだ

 胸に迫ってくるのは女の戦いの裏に潜む、あくなき幸福願望だ。一度つかんだ贅沢な暮らしを失いたくない。何が何でもスーパーリッチな地位を手に入れたいという野心。そこに同業のダンサーたちの嘲笑が降りかかる。

 仲の悪いダンサーたちはアノーラが玉の輿に乗ったと聞いて妬ましげに罵るが、バカ男が逃げたと知るや「それ見たことか」と侮蔑の笑いで責め立てる。筆者はこの場面が一番面白いと思った。まさに「女の敵は女」。アノーラはロシアの用心棒の暴力とバカ男の裏切り、そして女の嘲笑の3正面作戦を戦っているのだ。

 本作を撮ったショーン・ベイカー監督には「フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法」(2017年)、「レッド・ロケット」(21年)などの作品がある。「フロリダ――」は若きシングルマザーが生活苦から売春に走る姿を描いた。「レッド・ロケット」はポルノ男優を引退し別居中の妻の実家に転がり込んだ中年男が主人公。麻薬を売買しながら地元の少女をたぶらかしてポルノデビューさせ、ひと儲けしようと企むストーリーだ。

 いずれも社会の底辺でもがく自堕落な人物に焦点を当てた作風。筆者のような世の中の裏側の人間像を覗き見るのが好きな好事家にとって、ベイカー監督は貴重な映像クリエイターだ。本作ではストリップダンサーを動かし、その力量を遺憾なく発揮してくれた。

 カンヌのパルムドールを獲得し、アカデミー賞の6部門を狙う「ANORA アノーラ」。果たして勝利の女神は微笑むのだろうか。注目の授賞式は3月3日である。

(文=森田健司)

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    明石家さんま100億円遺産「やらへん」でIMALU“親ガチャ”失敗も…「芸能界で一番まとも」と絶賛の嵐

  2. 2

    “年収2億円以下”マツコ・デラックスが大女優の事務所に電撃移籍? 事務所社長の“使い込み疑惑”にショック

  3. 3

    大谷の性格、「俺は知ってるけど言えない…」水原元通訳の父親が投げかけた重大な問題・素朴な疑問

  4. 4

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  5. 5

    「もしもピアノが弾けたなら」作曲家・坂田晃一さんが明かす西田敏行さんの知られざる逸話

  1. 6

    山本由伸、佐々木朗希もゾッコン!ドジャース「生きた教材」サイ・ヤング賞左腕の指導力

  2. 7

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  3. 8

    ジャパネットたかた創業者の高田明さんは社長退任から10年…「あと40年、117歳まで生きる」

  4. 9

    セクハラ・パワハラの生島ヒロシ降板で「スポンサー離れ」危機のTBSラジオが“敏腕営業マン”も失う

  5. 10

    大谷も仰天!佐々木朗希が電撃結婚!目撃されたモデル風美女に《マジか》《ビックリ》