東レ(下)“繊維営業スペシャリスト”大矢光雄社長に期待されるのは「マーケット発想力」
「素材には、社会を変える力がある」──これは東レのカンパニースローガンだ。新しい素材を開発することで社会課題を解決する決意を示している。
例えば、炭素繊維が飛行機の主要部材に使われたことで、機体重量は軽くなって燃費を節約、CO2排出量も少なくなった。それだけでなく、鉄素材と違って錆びないため、客室内の湿度を上げることで乗客により快適な空の旅を提供できるようになった。
このように、東レ=最先端素材のイメージがあるが、今年6月、日覚昭広氏からバトンを受けて社長に就任した大矢光雄氏は、1980年に新卒入社して以来、一貫して繊維事業の営業畑を歩んできた。
日本の化学繊維は、輸出産業として日本経済を支えてきたが、大矢氏が入社する頃には陰りが出てきており、「繊維は終わった」と言われるようになっていた。東レが炭素繊維などの新素材に取り組んだのも、繊維以外の新たな事業が必要だとの危機感からだった。
なのに、なぜ今さら繊維営業のスペシャリストを社長に選んだのか。他の最先端事業を知らない人材に東レの社長が務まるのか。しかも年齢は就任時で67歳。最近の新社長としては極めて高齢だ。この社長人事を知った時に多くの人が疑問を感じた。