東レ(下)“繊維営業スペシャリスト”大矢光雄社長に期待されるのは「マーケット発想力」
それは選ばれた大矢氏も同じだった。3月に開かれた社長交代会見でも「打診があった時、繊維事業しか知らないため、いったん保留した」と正直な気持ちを明かしている。
そのうえで大矢氏は、「全社を見渡してみて、ゼロイチではなく、10から100に、100から1000にするような事業も多く、それなら私の経験や力が生かせるのではないかと思い、受けることを決めた」。
昨日掲載の前編で、東レの悩みは稼ぐ力が弱いことだと書いた。売り上げはそこそこ大きいが利益がついていかない。
大矢氏の前任の日覚氏は、初年度の11年3月期に1兆5397億円だった売上高を、12年後の前3月期、2兆4893億円と6割伸ばしている。ところが本業の儲けを示す営業利益は、11年3月期1001億円が前3月期1090億円とほぼ横ばい。利益率は6.5%から4.4%へと大きく低下した。
大矢氏はこれまで繊維営業として、常に最前線で顧客と接してきた。過去の社長の多くが技術屋で、プロダクトアウトの意識が強いのに対し、大矢氏にはマーケットインの思想がしみ込んでいる。