吉田沙保里も心配 「お涙頂戴」一色が選手に及ぼす“弊害”
レスリング国別対抗戦の女子W杯最終日は、日本が決勝でロシアに8―0の完勝。2年ぶり7度目の優勝を決めた。
今大会の話題を独占したのは、五輪3連覇の吉田沙保里(31)だ。父・栄勝さん(享年61)が11日急逝。14日の告別式の後は、都内で大会計量があるため火葬場へ向かう霊柩(れいきゅう)車には乗らずに涙で見送った。
急死してから4日後の試合に遺影を持って参戦。葬儀から追い続けてきたスポーツメディアは「父に捧げる6分間」「父直伝、魂のタックル」「お父さん、勝ったよ!」といったお涙頂戴一色だった。
■米国ならメンタルケアを勧める
スポーツ好きの吉川潮氏(作家)がこう言う。
「こういう報道は、ほどほどにしないと報じる側のあざとさを感じます。テレビは視聴者を、スポーツ紙は読者受けを狙って『父のために』と横並びで繰り返すが、受け取る側が心を打たれるか、あざといと感じるかは紙一重です。日本のメディアは売らんがために、この手の話を必要以上に追いかけ、報じますが、選手や関係者を商売のために利用するだけです。母親を亡くした直後の大会で優勝した浅田真央もそうでした。『母に捧げる優勝』と大々的に報じられたものの、精神的なケアが必要と指摘するメディアはなかった。実際、彼女は母親を亡くした翌年はスランプに陥った。ソチ五輪の信じられないミスも、母親の死と無関係ではないと思います。吉田選手にしろ浅田選手にしろ、最愛の肉親を失ったショックの大きさは計り知れない。米国なら、すぐにカウンセラーに診てもらうよう勧められるでしょう」
遺骨を手に表彰台に上がった吉田は「お父さんに『優勝したよ、ありがとうと言いたい』。良かった」と安堵の表情を見せた。メディアが望んでいた「最高の結果」だったものの、今後が心配だ。