「あの3球が集大成」 土井淳が語る54年前の日本シリーズ
「下馬評は大毎の4連勝。それも当然でした。ホームラン王と打点王に輝いた山内一弘さん、首位打者の榎本さん、田宮さんと強打者揃いでしたから」
結果は、大方の予想を覆して大洋が4連勝。いずれも1点差だった。
■エース秋山が見せた珍しい笑顔
大洋3連勝で迎えた第4戦は、野球人生の中でも「最高の出来だった」という。
「五回裏の大毎の攻撃。先発の島田源太郎が2死二塁のピンチを迎え、秋山に交代。マウンドに来た三原さんが『山内を敬遠して、次の田宮で勝負するか?』と。でも、秋山も僕も勝負を選択したんです。1球目は長打を警戒して、右バッターの外角低めにストレート。そしたら、主審がストライクに取ってくれたんですよ。限りなくボールくさいストライクでした、ハッハッハ。で、2球目も同じ球。ヤマさんはボールと思ってまた見逃しましたけど、もう主審はボールと言えないですよね。
問題は3球目。強打者のヤマさんなら<オレに3球勝負はしてこない>と読むだろうと、同じサインを出しました。秋山も秋山で、同じコース、同じ高さに3球続けて放るんだから、大したもんです。“針の穴を通すコントロール”が秋山にはありました。見逃したヤマさんが<アッ!>と声を出したとき、<この試合も1―0で勝ったな>と確信しましたね。あの3球は、中学、高校、大学、プロと18年間バッテリーを組んだ秋山との集大成だったと、今も思ってます」