09年ドラフトで荻野貴司を1位指名した舞台裏と圧倒的武器
しかし、荻野はモノが違った。1年目から56盗塁した小坂誠(現育成コーチ)とタイプは違うが、何より走り出してからの加速が素晴らしかった。当初はスタートに課題はあったものの、経験を重ねるごとに向上した。
■「プレーに遠慮はいらない」
こうして開幕戦から「2番・中堅」として起用することになるのだが、オープン戦当初は物足りなさも感じていた。打撃で結果が出ないこともあったのだろう。思い切りに欠け、遠慮がちにプレーしているように映った。3月初めにはこんな話をした。
「どこか遠慮しているような感じに見えるぞ。ユニホームを着たら、先輩後輩は関係ないというくらいの気持ちで、自分の思うようにやれ。でないと、自分の良さを発揮できないぞ」
私の言葉が全てではないだろうけれど、荻野はその翌日に安打が出て吹っ切れたのか、それまでとは違った姿を見せた。
開幕スタメンに抜擢するにあたり、私の中ではたとえ結果が出ないことが続いたとしても、この試合までは何があっても使うと線引きをしていた。でも、その必要は全くなかった。3、4月は32試合出場で打率.341、14盗塁、15犠打をマーク。5月に入ってますます盗塁のペースは上がった。どこまで盗塁数を伸ばすかと思っていたさなかの5月21日ヤクルト戦(千葉マリン)、二盗を試みてスライディングした際に、右ひざを故障。スライディングのタイミングがベースに近すぎたことが要因だった。
荻野は以降、シーズンを全休することになってしまったが、5月終了時に12個の貯金をつくれたのは彼の存在が大きかった。もし荻野がいなければ日本一になれたかどうか分からない。これからもケガをすることなく、一年でも長くプレーしてほしいと思う。 (つづく)